起業家の勇気 USEN宇野康秀とベンチャーの興亡

「起業家」という言葉に、皆さんはどのようなイメージを抱くでしょうか。
華やかな成功、時代の寵児、あるいは莫大な富。
しかし、ノンフィクション作家・児玉博氏による『起業家の勇気 USEN宇野康秀とベンチャーの興亡』は、そんな表層的なイメージを根底から覆します。

本書の主人公は、USEN-NEXT HOLDINGS(現U-NEXT HOLDINGS)の社長、宇野康秀氏

宇野氏は2026年7月号の『ForbesJAPAN』の表紙を飾っています。

かつて「ヒルズ族の兄貴分」と呼ばれ、サイバーエージェントの藤田晋氏やライブドアの堀江貴文氏らの背中を支えた男です。しかし、その足跡は、私たちが想像もできないほどの「絶望」と「再生」の連続でした。

父から引き継いだ「負の遺産」との死闘

物語の幕開けは、宇野氏が35歳で父・元忠氏の急逝に伴い、大阪有線放送(後のUSEN)の経営を引き継ぐ場面から始まります。

宇野氏を待ち受けていたのは、父が遺した800億円もの個人債務と、全国の電柱を無断で使用してケーブルを張り巡らせていたという、地球3周分にも及ぶ巨大な違法状態でした。

この「負の遺産」を正常化するために必要な資金は500億円。

宇野氏は、郵政省との関係を改善し、わずか1年程度でこの違法状態を解消するという、まさに命がけの「正常化」を成し遂げます。
ここには、父から受け継いだ「ワシより働くもんがおったらそいつが社長や」というハードワークの遺伝子が息づいています。

IT黎明期の狂気と「兄貴分」としての苦悶

2000年代のネットバブル期、宇野氏は時代の中心にいました。

藤田晋氏の起業を後押しし、ライブドア事件の際には、周囲が関わりを拒む中で「この会社を空中分解させてはいけない」と、私財95億円を投じてライブドア株を取得。堀江氏を助け、日本のベンチャー界を守ろうと奔走しました。

しかし、その後に訪れたリーマンショックが、彼を「地獄」へと突き落とします。

グループ全体で1000億円規模の損失を計上し、それまで協力的だった銀行団の態度は一変。連日の罵声、社長辞任の強要、さらには土下座まで強いられるという、壮絶な「債権者ハラスメント」にさらされました。

「子供たち」を売る痛みと、マラソンでの覚悟

負債を返すため、宇野氏は自ら育てた「子供」のような事業——インテリジェンス(現パーソルキャリア)やGyaO——を次々と売却せざるを得なくなります。

その痛みは筆舌に尽くしがたく、一時は自ら命を絶つことさえ脳裏をよぎったと言います。

そんな極限状態を支えたのは、意外にも「マラソン」でした。

皇居を走りながら銀行の建物を眺め、「借りた金は絶対に返す」という商売人としてのシンプルな矜持を再確認したのです。

本当の「勇気」とは何か

本書の白眉は、誰からも期待されず、銀行からも「やめろ」と言われた赤字部門のU-NEXT(当時の映像配信事業)を、宇野氏が私財で買い取り、300人の仲間を引き連れて再出発する場面です。

「また地獄を見たいのか」という揶揄を受けながらも、彼は「配信の時代が必ず来る」という確信を捨てませんでした。

一度は手放したUSENを再び買い戻し、今日の巨大なプラットフォームを築き上げた軌跡は、まさに執念の物語です。

本書のタイトルにある「勇気」とは、リスクに飛び込む瞬間の高揚感ではありません。
逃げ場のない状況で、孤独に耐え、逃げずに立ち続ける「耐久力」のことです。

決断を迫られるすべての人へ

読み終えたとき、私たちの心に残るのは「宇野康秀」という一人の男の凄みだけではありません。

組織で責任ある立場にいる人、あるいは人生の大きな決断を前に足がすくんでいる人にとって、本書は「逃げないことの強さ」を教えてくれるバイブルとなるはずです。

「勇気とは、派手なジャンプではなく、逃げずに立ち続けること」。

現代のビジネス界を生き抜くための、真の意味での「覚悟」を問い直してくれる一冊です。

ご購入はこちら。

おすすめ