本書『稲盛和夫の実学―経営と会計』は、京セラとKDDIの創業者であり、経営再建で知られる稲盛和夫氏が、自身の経営哲学と会計原則を号泣的に整理した実践的指南書です。
日本経済新聞出版より出版され、経営者や管理職だけでなく、広くビジネスパーソンや起業志望者にも強く推薦される一冊です。
経営資源をどう管理し、どう成果へつなげるか、その本質が丁寧に語られています。
稲盛氏は、まず経営者にとって不可欠な「キャッシュベース経営の原則」について詳述します。
バブル期に多くの企業が不良資産を抱えて崩壊した背景として、売上の増加だけを追い求め、経費管理を軽視した会計姿勢を挙げています。
さらに、「一対一の対応の原則」を強調し、伝票と現金・在庫が必ず一対一で結びつく仕組みを経営システムとして確立することで、不正を防ぎ組織の透明性を保つ重要性を説きます。
他方、「筋肉質経営」の視点では、不要な固定費の抑制や在庫管理の徹底など、無駄を排する会計姿勢が不可欠だと伝えています。
稲盛氏は、経営において会計以上に重要なのは「人の心と倫理観」であると語ります。
人の心は移ろいやすく不確かなものである一方、それが経営の根幹を支える力にもなる。
そこで「ダブルチェックの原則」により、システムで弱点を補い、人を守る仕組みを構築することの必要性を示します。
また「時間当たり採算」の概念を導入し、付加価値を高めるプロセスを指標化して共有することで、社員がリアルに「経営感覚」を持って働く環境を整えた例にも触れています。
本書の終盤では、稲盛氏の会計原則がどのように現場で実践され、経営者の心構えに直結するかが語られます。
単に数字を追うのではなく、「善く生き、人を信じ、組織を磨く」という原理原則に基づく実学としての経営論です。
たとえば、「売上を最大に、経費を最小に」を実現するには、心で考え、智恵と努力で数値を引き締める必要があるという教えや、人格を磨き『考え方 × 熱意 × 能力』で成果を作るという理論も具体的に紹介されています。
稲盛氏が実際に京セラで実践してきたアメーバ経営などの小集団独立採算制度も含め、経営者が組織を動かす具体的な姿勢や仕組みも詳細に述べられています。
『稲盛和夫の実学』は、会計の実務知識と倫理・哲学を融合させ、経営を実際に成り立たせる原理原則として体系化した稀有な書籍です。数字だけでは見えてこない、人間として正しくあることの大切さを教えてくれます。
経営を志す方、 CFOや財務責任者、あるいは「経営とは何か」を深く学びたいビジネスパーソンにとって、必携の一冊です。
ぜひ、あなたの経営やリーダーとしての考え方を揺さぶる学びにしてみてください。