「社長はつらい、でも…やめられない!」そんな想いを抱えている経営者、もしくは経営に挑戦しようとするビジネスパーソンにとって、本書は“リアルな経営”を体感させてくれる一冊です。
本書は「読者が選ぶビジネス書グランプリ2025」のマネジメント部門で第3位に選ばれました 。
ちなみに同グランプリでは、本ブログ運営の嶋村吉洋氏の『となりの億万長者が17時になったらやっていること』が経済・マネー部門第1位に選ばれています。
経営とは、華やかに見えてその実、孤独と決断の連続です。
本書は、その「社長という仕事」のリアルを、赤裸々に、そしてユーモアを交えて語った一冊です。
著者の徳谷智史氏はエッグフォワード株式会社の代表であり、企業の立ち上げ、成長、上場、撤退を経験してきたシリアルアントレプレナー。数多くの経営者とともに、1,000社以上の支援を手がけてきた実績を持ちます。
そんな著者が本書で描くのは、「経営に向いているかどうか」ではなく、「それでも社長をやり続けたいと思うかどうか」という覚悟の話です。
経営者にとって「お金」は、単なる数字ではありません。
創業期に訪れる資金難、社員の給料を払えるかどうかの不安、銀行や投資家との交渉──これらを乗り越える中で、著者は痛感します。
「お金は、信頼の尺度である」
特に創業間もないフェーズでは、決算書よりも「この人に賭けてみたい」と思わせる人間力が、資金調達を左右します。経営者には、未来を語り、他者の信頼を巻き込む胆力が求められるのです。
多くの経営書では財務や戦略が語られますが、徳谷氏が最も強調するのは「人と組織」の問題です。
創業メンバーとの温度差、新旧社員の対立、理念共有の難しさ。
特に企業が成長していく中では、「社長の言葉」が届かなくなり、組織はバラバラになります。
「言わなくても伝わるは、幻想でしかない」
だからこそ社長は、毎日のように理念を語り、何度も何度も想いを伝え続けなければならない。経営とは、根気強く「共感」を生み続ける作業なのです。
事業の成否を分けるのは、突き詰めれば「決断力」です。
プロダクトのリリースタイミング、事業拡大の判断、撤退のタイミング。
迷っている暇はなく、社長には常に「動きながら決める力」が求められます。しかもその決断には、必ず“責任”がセットになってついてきます。
だからこそ、信頼できる「壁打ち相手」を持つことが重要だと、著者は語ります。判断の精度を高めるのは、情報量でも論理でもなく、最終的には“孤独を共有できる人の存在”なのです。
本書のタイトル『経営中毒』には、「つらいのに、やめられない」という中毒性が込められています。
「社長はしんどい」と言いながら、なぜ多くの人が経営を続けるのか。
それは、“自分が思い描いた未来を、現実に変えていくこと”に他なりません。経営は、最高にハードで、最高に自由なクリエイティブ。
そう著者は繰り返し語ります。
『経営中毒』は、すでに経営の現場にいる人にとっては“共感”の嵐でしょう。
これから起業を考える人にとっては、希望と同時に“覚悟”を突きつけられる本です。
華やかな経営の裏にある「中毒的なリアル」を覗いてみたい方には、ぜひ一読をおすすめします。
そして読了後、こう思うかもしれません。「やっぱり社長って、しんどくて、でも面白い」と。